Wikipedia

アジサイ

ミズキ目アジサイ科の植物

アジサイ(紫陽花[1]、学名:Hydrangea macrophylla)は、アジサイ科アジサイ属の落葉低木の一種である[2]。広義には「アジサイ」の名はアジサイ属植物の一部の総称でもある[3]。狭義には品種の一つ H. macrophylla f. macrophylla の和名であり[4][注釈 1]、他との区別のためこれがホンアジサイと呼ばれることもある。原種は日本に自生するガクアジサイである。

アジサイ
Hydrangea of Shimoda 下田のあじさい (2630826953).jpg
ガクアジサイ
分類(APG III)
界 : 植物界 Plantae
門 : 被子植物門 Magnoliophyta
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : キク類 Asterids
目 : ミズキ目 Cornales
科 : アジサイ科 Hydrangeaceae
属 : アジサイ属 Hydrangea
節 : アジサイ節 Hydrangea
亜節 : アジサイ亜節 Macrophyllae
種 : アジサイ H. macrophylla
学名
Hydrangea macrophylla (Thunberg) Ser.
和名
アジサイ
ガクアジサイ
品種
  • ガクアジサイ H. m. f. normalis
  • アジサイ(ホンアジサイ) H. m. f. macrophylla
  • セイヨウアジサイ H. m. f. hortensia

目次

  • 1 概要
  • 2 分布
  • 3 名称
  • 4 特徴
    • 4.1 花の色
  • 5 分類
  • 6 シーボルトとあじさいと牧野富太郎
  • 7 鑑賞
  • 8 薬用
  • 9 毒性
  • 10 アジサイに関わる文化
    • 10.1 日本文学
      • 10.1.1 和歌
      • 10.1.2 俳句
      • 10.1.3 小説
    • 10.2 日本画
    • 10.3 日本の歌謡曲
    • 10.4 日本発行の切手
    • 10.5 菓子
    • 10.6 海外の文化
  • 11 日本の市町村の花・木として
    • 11.1 現行市町村
    • 11.2 廃止市町村
  • 12 脚注
    • 12.1 注釈
    • 12.2 出典
  • 13 参考文献
  • 14 関連項目
  • 15 外部リンク

概要編集

 
白い花のアジサイ

狭義のアジサイ(ホンアジサイ)は、日本で原種ガクアジサイから改良した園芸品種で、ガクアジサイに近い落葉低木[8]。6月から7月にかけて開花し、白、青、紫または赤色の萼(がく)が大きく発達した装飾花をもつ。ガクアジサイではこれが花序の周辺部を縁取るように並び、園芸では「額咲き」と呼ばれる。ガクアジサイから変化し、花序が球形ですべて装飾花となったアジサイは、「手まり咲き」と呼ばれる。

栽培は、梅雨期に主に挿し木によって繁殖させている[8]。日本、ヨーロッパ、アメリカなどで観賞用に広く栽培され、多くの品種が作り出されている。原産地は日本で、ヨーロッパで品種改良されたものはセイヨウアジサイと呼ばれる。変種のアマチャは稀に山地に自生するが、多くは寺院などで栽培されている[8]。また、漢方で用いないが、民間では薬用植物として利用できる。

なお、後述の通り本種は有毒植物であるため、園芸や切り花として利用する際には取り扱いに注意が必要である。ただし、口に入れなければ毒の効果はない。[9]食べてしまうと吐き気などの症状が出る。

分布編集

アジサイに関して、キュー植物園系のデータベース Plants of the World Online(POWO)は#分類で後述する原種や変種も含め Hydrangea macrophylla として日本と火山列島に自生し、その他世界の様々な国や地域に持ち込まれているとしている[10]。なお、POWO が利用している地域区分は分類学データベース専門調査委員会(英: Taxonomic Databases Working Group; 略称: TDWG)[注釈 2]によるものであり[11]、そのために2001年に提供された4段階による区分法では1段階目のアジア-温帯(Asia-Temperate)、2段階目のアジア東部(Eastern Asia)までは共通しているものの、3段階目で日本(Japan)と火山列島(Kazan-retto)という別々の区分に分けられている[12]。

名称編集

アジサイの語源ははっきりしないが、最古の和歌集『万葉集』では「味狭藍」「安治佐為」、平安時代の辞典『和名類聚抄』では「阿豆佐為」の字をあてて書かれている[13]。もっとも有力とされているのは、「藍色が集まったもの」を意味する「集真藍(あづさあい/あづさい)」がなまったものとする説である[14][13]。そのほか、「味」は評価を[注釈 3]、「狭藍」は花の色を示すという谷川士清の説、「集まって咲くもの」とする山本章夫の説(『万葉古今動植物正名』)、「厚咲き」が転じたものであるという貝原益軒の説がある[13]。

花の色がよく変わることから、別名で「七変化」「八仙花」とも呼ばれる[15][16]。また、四葩(よひら)は俳句で好まれる別名で、葩は「花びら」を表す言葉である[17]。

ガクアジサイの語源は、装飾花が周囲を額縁のように飾ることから、「額アジサイ」の意味で名づけられている[17]。

日本語で漢字表記に用いられる「紫陽花」は、唐の詩人白居易が別の花、おそらくライラック[7] に付けた名で、平安時代の学者源順がこの漢字をあてたことから誤って広まったといわれている[18]。草冠の下に「便」を置いた字が『新撰字鏡』にはみられ、「安知佐井」のほか「止毛久佐」の字があてられている。アジサイ研究家の山本武臣は、アジサイの葉が便所で使われる地域のあることから、止毛久佐は普通トモクサと読むが、シモクサとも読むことができると指摘している[19]。また『言塵集』にはアジサイの別名として「またぶりぐさ」が挙げられている[19]。

学名の属名 Hydrangea(ハイドランジア)は、「水」の意味である[20]。シーボルトはアジサイ属の新種に自分の妻「おタキさん」の名をとって Hydrangea otaksa と命名し、物議をかもした[21][22]。これは Hydrangea macrophylla と同種であった。

特徴編集

 
青色と紫色の花

落葉広葉樹の低木で、樹高は1 – 2メートル。葉は対生し、葉身は厚く光沢があり[8]、淡緑色で葉脈のはっきりした卵形で、周囲は鋸歯状。夏を過ぎると、黄白色や黄色に黄葉する[14]。

花期は6 - 7月[17]。花序は大型で、若い枝の先端に紫(赤紫から青紫)の花を咲かせる[20]。一般に花といわれている部分は装飾花で、大部分が中性花からなり、4枚の萼片が大きく変化したもので、花弁状で目立つ[8][17]。中央にある両性花は極小で目立たず[8]、退化した雄蕊10本と雌蕊3 - 4本がある。数え方は「◯朶(だ)」という。母種のガクアジサイでは、花序の頂部がたいらで両性花が多数あり、密集した両性花の周囲だけに装飾花(中性花)がみられるが[8]、アジサイ(ホンアジサイ)やセイヨウアジサイではほとんどが装飾花となっている。また、装飾花の欠如した変種も知られている(ガクアジサイ「三河千鳥」など)。

果期は7 - 12月で、ほとんど結実しないが[17]、ガクアジサイなどは両性花に蒴果をつける[20]。

花の色編集

花(萼)の色はアントシアニンという色素によるもので、アジサイにはその一種のデルフィニジンが含まれている。これに補助色素(助色素)とアルミニウムのイオンが加わると、青色の花となる[23]。従来は理論の域に留まっていたが、今般、実際にアジサイの花で直接確認された[24]。

アジサイは土壌のpH(酸性度)によって花の色が変わり、一般に「酸性ならば青、アルカリ性ならば赤」になると言われている[17][注釈 4]。これは、アルミニウムが根から吸収されやすいイオンの形になるかどうかに、pHが影響するためである。すなわち、土壌が酸性だとアルミニウムがイオンとなって土中に溶け出し、アジサイに吸収されて花のアントシアニンと結合し青色を呈する。逆に土壌が中性やアルカリ性であればアルミニウムは溶け出さずアジサイに吸収されないため、花は赤色となる[25]。したがって、花を青色にしたい場合は、酸性の肥料や、アルミニウムを含むミョウバンを与えればよい[26]。同じ株でも部分によって花の色が違うのは、根から送られてくるアルミニウムの量に差があるためである[27]。花色は花(萼)1グラムあたりに含まれるアルミニウムの量がおよそ40マイクログラム以上の場合に青色になると見積もられている[28]。ただし品種によっては遺伝的な要素で花が青色にならないものもある。これは補助色素が原因であり、もともとその量が少ない品種や、効果を阻害する成分を持つ品種は、アルミニウムを吸収しても青色にはなりにくい[29]。

土壌の肥料の要素によっても変わり、窒素が多く、カリウムが少ないと紅色が強くなる[20]。

また、花色は開花から日を経るに従って徐々に変化する[30]。最初は花に含まれる葉緑素のため薄い黄緑色を帯びており、それが分解されていくとともにアントシアニンや補助色素が生合成され、赤や青に色づいていく[30]。さらに日が経つと有機酸が蓄積されてゆくため、青色の花も赤味を帯びるようになる[注釈 5]。これは花の老化によるものであり、土壌の変化とは関係なく起こる[32]。

他に花が緑色の品種(ヤマアジサイ「土佐緑風」など)も知られており、観賞用として緑の花が販売されることもある。しかし日本ではファイトプラズマ感染による「アジサイ葉化病」にかかったものも稀にみられる[33][34]。この病気の治療法は知られておらず、感染拡大を避けるため発病株は処分したほうがよいとされる[33]。

分類編集

 
ガクアジサイ

この種は、装飾花の分布から、ガクアジサイと、狭義のアジサイ(ホンアジサイ)に分かれる。またこれらとは別に、ヤマアジサイ Hydrangea serrata やハイドランゲア・スティロサ Hydrangea stylosa を同種とする説もある。

分子系統では、栽培種にヤマアジサイに近縁なものとH. stylosaに近縁なものとがあり、交配による多系統かもしれない[35]。

ガクアジサイ(額紫陽花)
原種 H. macrophylla f. normalis
房総半島[1]、三浦半島、伊豆半島[1]、伊豆諸島[1]、和歌山県神島[36]、四国足摺岬[36]、南硫黄島、北硫黄島[37] で海岸に自生する[38][39](足摺岬のものは人為的植栽起源)[40]。このため、ハマアジサイとも呼ばれる[39]。半常緑の低木で[1]、高さは2 m程度だが[38]、4 mに達することもある[41]。庭木や公園樹としても植えられる[1]。
花序は多数の両性花を中心として、装飾花が周りを縁取る[38]。名称の「ガク」はこのさまを額縁になぞらえたものである[39]。花序は直径12 - 18 cm、装飾花は直径3 - 6 cmで色は白色・青色・淡青緑色・または淡赤紫色[38]、両性花は濃紫色である[39]。まれに白色などもある[36]。葉は広卵形で鋸歯がある[36]。まは葉は厚く、大きく(長さ10 - 18 cm[38])、種小名 macro (大きい) phyllus (葉)の由来となっている[39]。葉の表面は濃緑色で光沢がある[38]。外側の装飾花は実を結ばないが、中央部の多数の両性花は卵形の蒴果をつける[20]、冬でも枯れた花序に果実だけが残っていて、装飾花は落ちている[1]。冬芽は対生し、頂芽は裸芽で長卵形、測芽は小さく芽鱗2枚に包まれる[1]。葉痕は倒松形や腎形で維管束根が3個つく[1]。
栽培品種に ‘花火’、‘城ヶ崎’ などがある[42]。
アジサイ(紫陽花、別名:ホンアジサイ)
変種 H. macrophylla var. macrophylla
日本原産のガクアジサイの園芸品種で、暖地に生えるガクアジサイが改良されてすべてが装飾花になったもの[43]。しかし、自生しているという説もあり[44]、起源ははっきりしない[45]。他のアジサイとの区別のためホンアジサイとも呼ばれる[44]。欧米でも好まれ、品種改良が盛んで、ハイドランジアの名で流通している[43]。庭や公園に植えられる落葉低木で株立ちする[1]。樹皮は淡黄褐色で縦に薄く剥がれる[1]。枝は淡黄褐色で滑らかである[1]。
花序はほとんど装飾花のみからなり、種子ができるのはまれであるため、挿し木や株分けで増やす[38]。花序の大きさは20 - 25 cm程度である[38]。古く日本から中国へ伝わったものが、18世紀にさらにヨーロッパへと持ち込まれ、多くの園芸品種が作られた[45]。日本では輸入したものがセイヨウアジサイとも呼ばれる。かつて、シーボルトはこの品種を H. otaksa と命名したが、学名としては現在では使われていない[46]。ちなみに学名上は、ガクアジサイより先に命名されたこちらが Hydrangea macrophylla 種の基亜種という扱いである。
冬でも枯れた姿で装飾花が残るが、果実は実らない[20][1]。
冬芽は対生し、頂芽は裸芽で大きく、暗紅紫色で無毛の幼葉が2枚向き合う[1]。測芽は小さく、薄い芽鱗2 - 4枚に包まれている[1]。葉痕V字形や心形で、維管束痕が3個つく[1]。
材はかたくて、かつては木釘の材に使われた[43]。
ヤマアジサイ(山紫陽花)
別種 Hydrangea serrata ver. serrata だが[47]、亜種 Hydrangea macrophylla subsp. serrata 等とする説もある[48]。
本州の福島県以南の太平洋側、四国、九州に分布する[47]。山地の沢沿いなどの湿り気の多いところに生えるため、サワアジサイの別名がある[47]。落葉低木で、高さ1 mほどになり、ガクアジサイよりも小ぶり[47]。樹皮は灰褐色で薄く剥がれる[47]。冬でも枯れた果序の装飾花が良く残っている[47]。冬芽は対生し、頂芽は裸芽で大きく、測芽は小さい[47]。冬芽は頂芽ははじめ芽鱗があるがすぐに落ち[47]、測芽は芽鱗2枚に包まれる[47]。葉痕は心形や三角形で維管束痕が3個つく[47]。

シーボルトとあじさいと牧野富太郎編集

この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。
出典検索?: "アジサイ" – ニュース · 書籍 · スカラー · CiNii · J-STAGE · NDL · dlib.jp · ジャパンサーチ · TWL
(2012年7月)

鎖国時代に長崎にオランダ商館員の一員として日本に渡来し、オランダ人と偽って出島に滞在し医療と博物学的研究に従事したドイツ人医師にして博物学者シーボルトは、オランダに帰還してから植物学者のツッカリニと共著で『日本植物誌』を著した際にアジサイ属 14 種を新種記載している。その中で花序全体が装飾花になる園芸品種のアジサイを Hydrangea otaksa Siebold et Zuccarini と命名している。しかしこれはすでにカール・ツンベルクによって記載されていた H. macrophylla (Thunberg) Seringe var. macrophylla のシノニム(同一種)とみなされ、植物学上有効名ではない。にもかかわらず、牧野富太郎が自著の各種植物図鑑において Hydrangea macrophylla Seringe var. otaksa Makino の学名を用い種の記載者が Seringe で変種の記載者が牧野自身であるとする事実と異なる処置を行っていることから、一部の植物学書であたかも H. otaksa が植物学的な有効名であるかのような誤解が広まってしまっている。

牧野は上記の植物学的に不可解な処置と矛盾する言動をまた、著書の中で行っている。シーボルトは自著の中で otaksa をアジサイが日本で「オタクサ」と呼ばれていると命名の由来を説明しているが、牧野は日本国内でこの呼称が確認できなかったことからシーボルトの愛妾の楠本滝(お滝さん)の名を潜ませたと推測し、美しい花に花柳界の女性の名をつけたとして強く非難している。そして自らも新種の笹に自らの妻の名から「スエコザサ」と名付けた。

牧野のこの推測によって「オタクサ」の名はシーボルトとお滝さんのロマンスをイメージさせて文人作家の創作意欲を刺激し、詩歌にこの名を詠み込むことなどが盛んに行われている。

鑑賞編集

低木で、5月から7月頃、青、紫、ピンクなどの花(装飾花)を密につけ、手毬状をなす。初夏あるいは梅雨時期の風物詩として広く親しまれ、鑑賞用に庭園や公園に植栽されてきた。また、咲き始めの頃は白っぽく、次第に色が変ってくることから「七変化」とも呼ばれる。園芸種も多い。

アジサイを剪定する時期は、鑑賞が終わった花後すぐである[20]。こうすることで株の根元近くに花芽が形成されて、翌年も花を見ることができるようになる[20]。

日本全国各地にアジサイを境内に多く植えたアジサイ寺と呼ばれるような観光名所がある。アジサイの名所として神奈川県鎌倉市などが有名である。公共の施設では大阪府民の森ぬかた園地、神戸市立森林植物園、舞鶴自然文化園に約5万株のアジサイが植えられている。三重県津市にある「伊勢温泉ゴルフクラブ内の福祉と環境を融合したあじさい園」には 2万5000平方メートルに 56 種類・7万5000株のあじさい園が2008年6月より新設された。また神戸市の裏六甲ドライブウェイおよび奥摩耶ドライブウェイ沿いには延々とアジサイが自生している。神奈川県の箱根登山鉄道では開花時期に合わせ夜間ライトアップされたアジサイを楽しめる特別列車が運行されている。岩手県一関市にある「みちのくあじさい園」は、15万平方メートルの杉山に300種・3万株のアジサイと、元日本アジサイ協会会長 故・山本武臣氏の収集・栽培品が「山本コレクションコーナー」として保存されている。

寺院の名所は、アジサイ寺を参照
  •  

    自生のアジサイ(表六甲ドライブウェイ)

  •  

    葉脈を残して枯れ落ちた状態(上総大久保駅)

薬用編集

漢方では用いられないが、民間薬として葉、花が利用される[8]。初夏に花や葉を採って天日乾燥して生薬にする。解熱に、乾燥させた花または葉10グラムを煎じて服用する用法が知られ、特に瘧(おこり、一定時間おいて起こる熱病)に効果があるといわれている[8]。

毒性編集

アジサイの保有する毒性に関しては、アジサイ属を参照

アジサイに関わる文化編集

 
紫陽花を模した生菓子

アジサイの花言葉は、「移り気」「高慢」とされている[17]。

日本文学編集

古来より多くの詩歌に歌われ、俳句は夏の季語である。さまざまに色が変化する装飾花は、梅雨時の風物詩となっている[17]。

和歌編集

万葉集には二首のみ。

  • 言問はぬ木すら味狭藍諸弟(もろと)らが練の村戸(むらと)にあざむかえけり(大伴家持 巻4 773)
  • 紫陽花の八重咲く如やつ代にをいませわが背子見つつ思はむ(しのはむ)(橘諸兄 巻20 4448)

平安後期になるとしばしば詠まれるようになった。

  • あぢさゐの花のよひらにもる月を影もさながら折る身ともがな(源俊頼『散木奇歌集』)
  • 夏もなほ心はつきぬあぢさゐのよひらの露に月もすみけり(藤原俊成『千五百番歌合』)
  • あぢさゐの下葉にすだく蛍をば四ひらの数の添ふかとぞ見る(藤原定家)

現代では多くの作品が詠まれており、例をあげることは必ずしも容易ではない。

俳句編集

俳句では、あじさい(紫陽花)は夏の季語[20]。

小説編集

  • 「あじさい」- 永井荷風 作、昭和6年(1931年)

日本画編集

 
あじさいに燕
  • 「あじさいに燕」- 葛飾北斎 画
  • 「あじさい」- 高村智恵子 画、またこれを原画とした巨大タイル壁画が神戸文化ホールにある。
  • 「紫陽花」- 菱田春草 画

日本の歌謡曲編集

  • 「あじさいの歌」 - 石原裕次郎 歌、1960年
    • この歌および生前アジサイが好きだったことにより7月17日の石原裕次郎忌を「あじさい忌」という。
  • 「紫陽花の詩」- グレープ 歌、1974年
  • 「紫陽花」- アリス 歌、1975年。1980年には横山みゆきがカバーしている。
  • 「あじさい橋」- 城之内早苗 歌、1986年
  • 「あじさいのうた」- 原由子 歌、1987年
  • 「紫陽花の坂道」 - 熊谷幸子 歌、1994年
  • 「あじさい通り」- スピッツ 歌、1995年
  • 「あじさい」- サニーデイ・サービス 歌、1996年
  • 「アジサイ」- LINDBERG 歌、1996年
  • 「紫陽花のうた」- 浜田省吾 歌、1996年
  • 「あじさい」- RAZZ MA TAZZ 歌、1997年
  • 「あじさい」- 山崎まさよし 歌、1997年
  • 「紫陽花」- 五木ひろし 歌、1997年
  • 「紫陽花」- TUBE 歌、2000年
  • 「紫陽花の咲く庭で」- 2001年、川澄綾子 歌
  • 「紫陽花」- シド 歌、2004年
  • 「紫陽花」- 椿屋四重奏 歌、2005年
  • 「Hydrangea」- INORAN 歌、2008年
  • 「紫陽花」- Ms.OOJA 歌、2013年
  • 「夏のハイドレンジア」- Sexy Zone 歌、2021年

日本発行の切手編集

  • 1966年(昭和41年)7月1日発売 25円普通切手
  • 1972年(昭和47年)1月21日発売 25円普通切手 刷色変更
  • 1992年(平成4年)4月20日発売 62円 切手趣味週間『榻上の花』山口蓬春
  • 1996年(平成8年)4月19日発売 80円 切手趣味週間『窓』安田靫彦
  • 2001年(平成13年)6月1日発売 50円 東京の四季の花・木
  • 2003年(平成15年)4月1日発売 50円 日本郵政公社設立記念 『四季花鳥図巻』のガクアジサイの部分図
  • 2004年(平成16年)6月1日発売 50円 ふるさと切手 神奈川県の花
  • 2005年(平成17年)4月1日発売 50円 ふるさと切手 北陸の花
  • 2006年(平成18年)6月1日発売 80円 ふるさと切手 九州の花と風景II アジサイと見帰りの滝・佐賀県
  • 2012年(平成24年)6月7日発売 50円と80円 ふるさと切手 季節の花シリーズ第3集

菓子編集

  • 新庄の花あじさい
    • 山形県新庄市にあった「新庄の菓匠たかはし」が製造販売していた洋風クッキー。クッキー菓子であるが"あじさいせんべい"の愛称で親しまれた。薄焼きのクッキーにアーモンドスライスがちりばめられている。新庄市の花であるアジサイをモチーフしており、1985年に販売開始。2002年には全国菓子大博覧会で最高賞の名誉総裁賞を受賞している。新庄の菓匠たかはしの店主の高齢化と新型コロナウイルスによる景気失速により、2020年に新庄の菓匠たかはしが閉店となり、新庄の花あじさいの製造も停止となった[49]。

海外の文化編集

中国ではアジサイを「繡球」と言う。チワン族にはアジサイに模した絹に刺繍を施した手毬を作り、男女が問答をしながら投げ合ってお互いの意志を確認する求婚の伝統的な習慣がある。 狛犬[注釈 6]やシーサーの起源となる石獅子(中国語版)(訓みは「シシジ」「せきしし」)は瑞獣を象った石獣の1つで、一対で置かれる左側の雄獅子は足に繡球を持っている。

日本の市町村の花・木として編集

アジサイは下記の市区町村の花・木として制定されている。

現行市町村編集

  • 青森県:東津軽郡外ヶ浜町
  • 秋田県:北秋田市
  • 山形県:新庄市、西村山郡大江町
  • 茨城県:かすみがうら市、稲敷郡河内町
  • 群馬県:渋川市
  • 埼玉県:さいたま市西区
  • 千葉県:松戸市、成田市、旭市、習志野市、勝浦市、香取郡多古町
  • 東京都:港区、三宅村
  • 神奈川県:横浜市瀬谷区・港南区、相模原市、秦野市、足柄上郡開成町
  • 新潟県:南蒲原郡田上町
  • 富山県:射水市
  • 福井県:福井市
  • 山梨県:南巨摩郡南部町
  • 岐阜県:美濃加茂市、瑞穂市
  • 静岡県:下田市、牧之原市
  • 愛知県:名古屋市千種区、日進市
  • 大阪府:大阪市生野区
  • 兵庫県:神戸市
  • 和歌山県:伊都郡かつらぎ町
  • 広島県:府中市、安芸高田市
  • 長崎県:長崎市
  • 熊本県:宇土市

廃止市町村編集

  • 青森県:東津軽郡三厩村(現:外ヶ浜町)、下北郡川内町(現:むつ市)、三戸郡名川町(現:南部町)
  • 宮城県:登米郡石越町(現:登米市)
  • 秋田県:仙北郡仙北町(現:大仙市)
  • 茨城県:新治郡霞ヶ浦町(現:かすみがうら市)、真壁郡協和町(現:筑西市)
  • 栃木県:黒磯市(現:那須塩原市)、下都賀郡大平町(現:栃木市)、那須郡小川町(現:那珂川町)
  • 群馬県:勢多郡黒保根村(現:桐生市)
  • 新潟県:北蒲原郡豊浦町(現:新発田市)、西蒲原郡西川町(現:新潟市西蒲区)、 東頸城郡浦川原村(現:上越市)、中頸城郡吉川町(現:上越市)
  • 石川県:石川郡鶴来町(現:白山市)
  • 福井県:坂井郡三国町(現:坂井市)、遠敷郡上中町(現:若狭町)
  • 山梨県:中巨摩郡中富町(現:身延町)
  • 三重県:員弁郡北勢町(現:いなべ市)、度会郡南島町(現:南伊勢町)
  • 滋賀県:東浅井郡びわ町(現:長浜市)、伊香郡余呉町(現:長浜市)
  • 京都府:相楽郡加茂町(現:木津川市)、与謝郡岩滝町(現:与謝野町)
  • 兵庫県:神崎郡神崎町(現:神河町)、宍粟郡安富町(現:姫路市)、養父郡養父町(現:養父市)
  • 奈良県:宇陀郡菟田野町(現:宇陀市)
  • 徳島県:那賀郡相生町(現:那賀町)
  • 香川県:大川郡長尾町(現:さぬき市)、木田郡庵治町(現:高松市)
  • 高知県:吾川郡春野町(現:高知市)
  • 佐賀県:東松浦郡相知町(現:唐津市)
  • 長崎県:北松浦郡世知原町(現:佐世保市)、壱岐郡郷ノ浦町(現:壱岐市)
  • 熊本県:阿蘇郡長陽村(現:南阿蘇村)、天草郡栖本町(現:天草市)
  • 宮崎県:宮崎郡佐土原町(現:宮崎市)、北諸県郡山之口町(現:都城市)
  • 鹿児島県:薩摩郡祁答院町(現:薩摩川内市)・鶴田町(現:さつま町)、曽於郡松山町(現:志布志市)

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ 変種の一つとされる場合もある[5][6][7]。
  2. ^ 現在は「生物多様性情報規格 (TDWG)」Biodiversity Information Standards (TDWG) と改称されている。
  3. ^ 味のある絵」「味な趣向」などの用法における味。
  4. ^ リトマス試験紙と逆なので注意されたい。
  5. ^ アントシアニンそのものも酸性度によって色が変化する[31]。
  6. ^ 「狛犬」には南方系の「石獅子」だけでなく、北方系の「コマ(貊、高麗)」の文化要素が混合している。

出典編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2012, p. 86.
  2. ^ 日外アソシエーツ 編 『植物3.2万名前大辞典』日外アソシエーツ、2008年。ISBN 978-4816921209。 
  3. ^ 濱野周泰. “アジサイ(ハイドランジア)”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2013年8月3日閲覧。
  4. ^ 橋本保 著「アジサイ」、フランク・ギブニー 編 『ブリタニカ国際大百科事典』(第2版改訂版)ティービーエス・ブリタニカ、1993年。 
  5. ^ フランク・ギブニー 編「アジサイ」 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』(第2版改訂版)ティービーエス・ブリタニカ、1993年。 
  6. ^ 若林三千男 著「アジサイ」、下中直人 編 『世界大百科事典』(2009年改定新版)平凡社、2009年。 
  7. ^ a b 小林義雄・湯浅浩史. “アジサイ”. 日本大百科全書(ニッポニカ). 2019年5月19日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i 馬場篤 1996, p. 17.
  9. ^ “アジサイの葉は有毒です。食べないで!:目黒区公式ホームページ”. www.city.meguro.tokyo.jp. 2022年6月14日閲覧。
  10. ^ POWO (2019). "Plants of the World Online. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; http://www.plantsoftheworldonline.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:791637-1 Retrieved 16 June 2021.
  11. ^ Search help, Plants of the World Online. 2021年6月16日閲覧。
  12. ^ Brummitt, R. K. (2001). World Geographical Scheme for Recording Plant Distributions (2 ed.). Pittsburgh: Hunt Institute for Botanical Documentation, Carnegie Mellon University. p. 42. http://www.grassworld.myspecies.info/sites/grassworld.myspecies.info/files/tdwg_geo2.pdf 
  13. ^ a b c 山本 (1981)、12頁。
  14. ^ a b 亀田龍吉 2014, p. 65.
  15. ^ 山本 (1981)、8頁。
  16. ^ 武田 (1996)、105頁。
  17. ^ a b c d e f g h 田中潔 2011, p. 144.
  18. ^ 山本 (1981)、14頁。
  19. ^ a b 山本 (1981)、13頁。
  20. ^ a b c d e f g h i 田中潔 2011, p. 145.
  21. ^ 山本 (1981)、16頁。
  22. ^ マレー (2009)、241頁。
  23. ^ 武田 (1996)、98–99頁。
  24. ^ 日本経済新聞2019年4月14日サイエンス欄
  25. ^ 武田 (1996)、102頁。
  26. ^ 武田 (1996)、103頁。
  27. ^ 武田 (1996)、100頁。
  28. ^ Schreiber, H. D.; Jones, A. H.; Lariviere, C. M.; Mayhew, K. M.; Cain, J. B. (2011). “Role of aluminum in red-to-blue color changes in Hydrangea macrophylla sepals”. Biometals 24 (6): 1005–1015. PMID 21584711. 
  29. ^ 武田 (1996)、103–104頁。
  30. ^ a b 武田 (1996)、105–107頁。
  31. ^ 武田 (1996)、65頁。
  32. ^ 武田 (1996)、107頁。
  33. ^ a b 河原田、三上、若林 (2010)、175頁。
  34. ^ “アジサイ葉化病について”. 神奈川県農業技術センター (2007年11月1日). 2012年3月20日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2012年6月16日閲覧。
  35. ^ Samain, Marie-Stéphanie; Wanke, Stefan; Goetghebeur, Paul (2010), “Unraveling Extensive Paraphyly in the Genus Hydrangea s. l. with Implications for the Systematics of Tribe Hydrangeeae”, Systematic Botany 35 (3), http://www.ingentaconnect.com/content/aspt/sb/2010/00000035/00000003/art00014 
  36. ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 69.
  37. ^ 川島 (2010)、298頁。
  38. ^ a b c d e f g h 北村、村田 (1979)、114頁。
  39. ^ a b c d e 河原田、三上、若林 (2010)、26頁。
  40. ^ 川島 (2010)、300頁。
  41. ^ マレー (2009)、61頁。
  42. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、8、34、36頁; マレー (2009)、66–67頁。
  43. ^ a b c 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 68.
  44. ^ a b 河原田、三上、若林 (2010)、27頁。
  45. ^ a b 北村、村田 (1979)、115頁。
  46. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、7頁。
  47. ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2012, p. 87.
  48. ^ Reed, Sandra M.; Rinehart, Timothy A. (2006). “Hydrangea macrophylla and serrata – Should we Lump 'em or Split 'em?”. SNA Research Conference 51: 573–576. http://naldc.nal.usda.gov/download/45326/PDF. 
  49. ^ “新庄の“あじさいせんべい”忘れないよ 月末、「菓匠たかはし」90年の歴史に幕”. 山形新聞 (株式会社山形新聞社). (2021年2月2日). https://www.yamagata-np.jp/news/202102/02/kj_2021020200036.php 2021年2月4日閲覧。 

参考文献編集

  • 亀田龍吉 『落ち葉の呼び名辞典』世界文化社、2014年10月5日、65頁。ISBN 978-4-418-14424-2。 
  • 川島榮生、 『アジサイ百科』アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-67-6。 
  • 河原田邦彦、三上常夫、若林芳樹 『日本のアジサイ図鑑』柏書房、2010年。ISBN 978-4-7601-3819-7。 
  • 北村四郎、村田源 『原色日本植物図鑑』保育社、1979年。ISBN 4-586-30050-7。 
  • コリン・マレー 『アジサイ図鑑』大場秀章、太田哲英(訳)、アボック社、2009年。ISBN 978-2-84138-309-2。 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 『草木の種子と果実』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2012年9月28日、86頁。ISBN 978-4-416-71219-1。 
  • 武田幸作 『アジサイはなぜ七色に変わるのか?』PHP研究所、1996年。ISBN 4-569-55044-4。 
  • 田中潔 『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、144-145頁。ISBN 978-4-07-278497-6。 
  • 馬場篤 『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、17頁。ISBN 4-416-49618-4。 
  • 平野隆久監修 永岡書店編 『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、68-69頁。ISBN 4-522-21557-6。 
  • 山本武臣 『アジサイの話』八坂書房〈植物と文化双書〉、1981年。ISBN 978-4-89694-314-6。 

関連項目編集

  • 鎌倉市 - アジサイの名所として知られる神奈川県の市。
  • アジサイ寺

外部リンク編集

ウィキスピーシーズにアジサイに関する情報があります。
ウィキメディア・コモンズには、アジサイに関連するメディアおよびカテゴリがあります。
  • アジサイ - 厚生労働省
  • 『アジサイ』 - コトバンク
  • アジサイ(広義)の葉の解剖学的研究 - 横浜国立大学教育学部理科教育実習施設研究報告(1983-1997)第05号
「https://ja.wikidark.org/w/index.php?title=アジサイ&oldid=90215181」から取得
Wikipedia dark mode